Veldhoen + Company(以下、V+C)で働くコンサルタントを紹介するLife at V+Cシリーズ。今回は日本のカントリーリード兼シニアコンサルタントを務める岸田祥子さんに焦点を当てます。
岸田さんは2019年8月にV+Cに入社。それ以前は、国内のオフィス家具メーカーで10年以上にわたりワークプレイスのコンサルティングや営業企画などを担当していました。元々、大学の頃からオフィスや働き方に関する研究をしていたため、働き方に関する分野には強い興味があったといいます。
岸田さんをV+Cに引き寄せたのは、ABWが持つ、あらゆる活動を分類してみるというアプローチでした。それまで日本では、知識創造やクリエイティブなど、様々な業務の中でも付加価値を創造する業務に焦点を当て、実際に多くの時間を割いている定型業務は置き去りになることが多くあったといいます。そのため仕事全体を俯瞰して分類するアプローチは岸田さんにとって斬新なものとして映りました。
シニアコンサルタントとして、仕事や仕事以外で岸田さんが日々インスピレーションを受けるものは何なのか、インタビューの内容をお届けします。
Q. 働き方の戦略コンサルタントとして刺激を受けていることを教えてください。
岸田:働き方戦略コンサルティングの業務の中で私個人の興味関心や特に楽しいと思うことは以下の2つです。
1. 組織文化の違いを観察し、クライアントに適切な提案を行うこと
この仕事には様々なスキルが必要になりますが、個人的な興味としては、組織の文化の観察と分析が最も楽しい部分です。
私たちは国や地域ごとの文化や行動の違いなどを取り上げることは多いですが、それくらいの大きな違いが組織文化ごとにもあるのではないかと思っています。他の職業では転職などをしてもおそらく2〜3個しか組織文化を経験する機会はないですが、この仕事はプロジェクトを通じて数多くの組織文化を観察することができます。そこが醍醐味です。
組織文化や所謂「空気」のようなものは、人の意思決定の仕方や業務のプロセス、上司の意見の影響力、会社に対する帰属意識など、何かそういう細かいものの積み重ねで形成されていると思っています。その空気がどんな要素でできていて、その集団の人にとって快適なのか、不快なのか、また、その要素がどのように人の行動に影響を及ぼしているのかを分析し、改善点や改善する方法をクライアントに理解いただけるように提案することがこの仕事の楽しいところです。
2. 国による組織文化の違いや特性を学び、その知識を活かすこと
日本の組織文化について研究している上智大学の Parissa Haghirian教授に学ぶ機会がありました。教授は日本の組織文化と欧・米の組織文化は根本的に違うとおっしゃっていました。
例えばVUCAに代表される今の潮流を踏まえると、変化する状況にすぐに適応できる素早い意思決定という点ではアメリカの組織文化やマネジメント手法に軍配が上がるかもしれません。それをそのまま自分の組織に導入するのには限界があると感じている方もいると思います。それはその通りです。
大切なのは、様々な組織文化があることを知っておくこと、そして理想的には状況に応じてマネジメントの仕方を使い分けることができるように知識を養っておくことだと思います。
こうした俯瞰的な視点を持ち、適切な形で日本市場やクライアントに伝えることがコンサルタントとしての自分のテーマだと思っています。
Q. ハイブリッドワークで快適に働くために実践していることがあれば教えてください。
リズムを作ることです。何時から何時まではこの活動を行う、何時までは仕事をしないなど、働き方のリズムを作ることが重要です。
自分のリズムをつくるために、必要なことの1つ目は自分の働き方を観察することです。例えば、私は何時から何時までどのようなタスクを行ったかをトラッキングしていますが、それを見てみると1つの作業を一通りやり終えるのは1時間50分から2時間10分程度です。そうすると、活動の塊を2時間と見ておいて、その後に休憩を入れるのか、家事をするのか、ヨガをするのか、といった予定を組むことができます。可能であれば会議の予定もこれを鑑みて調整します。
このようなサイクルを自分で観察していかに自身の働き方のスケジュールに反映できるか、というのがポイントかなと思います。
2つ目は、今日の自分が平常と比べて調子が良いのか悪いのかを比較することです。朝起きて「今日は頭がよく回転しているな」と感じたら、なぜそれが起きているのかを考えます。例えば、昨夜いつもより少し早め寝たからとか、寝る前にストレッチをしたからなど、自分の調子との因果関係を探して検証し、うまくいけば自分のルーティンに組み込む、というのを繰り返します。
このように自分の癖を知るというのはハイブリッドワークになってから、言い換えると自分で仕事の時間の使い方をより決められるようになってからより重要になった気がします。出社するといった義務的な活動が減ったことでより自分の心身の状態に合わせて物事を組み立てられるからです。
Q. V+Cはデータに基づく提案や意思決定を重視しています。働き方戦略の中でデータを最大限活用するには?
まず前提として、日本は以前からデータエビデンスに基づく意思決定に重きをおく傾向があります。役職を問わず個人の意思や意見よりも全体の意思や傾向をデータとして集め、それに基づき集団として意思決定をしてきました。
Utilization study(オフィスの利用度調査)なども組織全体としての働き方の傾向を知る上で役立ちますが、逆に集団のデータや数字だけをベースとして議論が進むことも日本ではよくあります。なので、データの活用として他の国とは異なるアプローチが必要だと思っています。組織全体としての施策や取り組みをデータだけで判断することはもはや時代にそぐわないと思っています。
個人的に思うのは、組織全体の総意としてデータを活用して施策や戦略を決めるのではなく、個人の働き方の経過や変化など、自分自身の次のステップを判断するためにデータを活用するという視点です。例えば先週の自分の行動と比較したときに、今週の自分はどうか、来週の自分はどう行動しようか?といった具合です。
これまで自分の記憶や経験でしかわからなかったことを客観的に評価するための数値としてデータ化し、自分自身の働き方を改善するために使うことも集団データの活用と同じく重要だと思います。そのためにも、ワーカー個人にとって自分の働き方を理解し内省する時間を確保しておくことが重要かもしれませんね。
Q. V+Cではカルチャーとして好奇心を大事にしています。仕事以外でどのような活動が好奇心の原動力となっていますか?
私たちの仕事は、クライアントに対しABWや新しい働き方について頭で理解してもらうだけではなく、いかに行動につなげてもらうかが重要だと考えています。
その点において、私が週に3-4回レッスンに通うヨガにはチェンジマネジメントの観点からも様々な学びがあります;
- 新しい快適に向けて努力する:他者と比較することに意味はなく、自分自身をより快適にしていくことがテーマです。これはチェンジマネジメントにも通底します。他者よりも変革を許容できているかは重要ではなく、昨日の自分と比較して変化しているかが何より大切です。またこの快適な状態に持っていくには結構な努力と練習が必要になる点も似ています。
- とても遠いゴールに向かって、小さな改善を続ける:ヨガには「完璧」がないと思っています。呼吸や姿勢、思考など全てが完全にできたと思ったことはありません。一つ課題をクリアしても、また次の課題が見つかります。常に改善の繰り返しです。組織の変化も何が変わったのかを個人の振る舞いのレベルで観察し、それを組織の目標に向けて積み重ねていくことがポイントです。
- 無関係に見える要素のつながりを見出す:ヨガでは、呼吸、身体の動かし方、思考など普段は一緒に考えないことに統合的にアプローチしていきます。これはとても難しいですが、全てがアラインされている時の状態は他には代え難いものがあります。ABWにおいても統合的なアプローチを取ることが何より重要ですし、それが実現した時ほど効果的な働き方の戦略が構築できると思います。
ヨガに取り組む以前は、なぜ身体を動かすことで思考が変わるのかに懐疑的でしたが、今では日々の小さな行動の積み重ねが日常の意識の変化に結びつくことが体感として理解できます。自分の小さなアクションの積み重ねが、大きな変化につながることを体感しているからこそ、働き方のコンサルタントとしても「小さな行動の積み重ねが重要であること」を自信を持って発言できる思っています。
今年私たちが掲げているBold Experimentもこのような小さな取り組みの積み重ねだと理解しています。
Q. 最近読んだ本の中で記憶に残るものはありましたか?
あえて興味深い参考資料としてこれを選びました。
独裁体制から民主主義へ―権力に対抗するための教科書 ジーン シャープ 著
この本は「アラブの春」などの非暴力革命運動に影響を与えた本で、いかにして独裁主義を非暴力的に打倒するかという方法論と具体的な戦略がまとめられています。すなわち対話や草の根活動を通じて既存の体制から脱却する方法が事細かに記載されており、組織のチェンジマネジメントのプロセスの参考になるのではないかと思い読んだ一冊です。 日本の組織が独裁的で打倒すべき対象だということではありません(笑)。
参考になるのが、この本の末尾にある「非暴力的行動198の方法」というリストです。例えば、どんなステークホルダーをどう懐柔するのか、使うべきコミュニケーションチャネルは何かなど、多少読み替えが必要になりますが、チェンジマネジメントに参考になる情報に溢れています。
少し脱線しますが、この本を読んでいて深く考えたことは、日本の組織において働き方を変える際の「独裁者」は誰だろうかという問いです。よく耳にするのは、「社長が許可しない」ではなく「”組織”が許可しない」という謎の独裁者の存在です。「組織さん」という人はいないのに。実はこの表現は英語に翻訳しにくいです。海外では明確にCEOやマネージャーの名前が入ることが多いように感じます。日本では「組織名称」が擬人化されあたかも意思を持つ人として存在します。
その擬人は組織にいる自分もその一部であり、自分達が作り上げた人であるにも関わらず、時間の積み重ねと共に今の自分たちが望まない像ができあがってしまっていることが多くあります。これが組織文化そのものだと思いますが、結果、自分たちを縛り柔軟な働き方ができないというケースがあるように感じます。これは非常に厄介です。特定の人がわかっていれば会話ができるのですが、「組織さん」とは簡単に会話ができません。
この「組織さん」と敵対することなく、新しい体制に移行していくには「組織さん」を構成する全員、つまり組織の皆さんとの対話が必要だなと感じています。
Q. ABWのコンサルタントとして企業の新しい働き方にアプローチする上で、ご自身が影響を与えたと感じたのはどんな時でしょうか?
自分の知見や取り組みが大きな変化を生んだという瞬間を挙げるのは難しいですが、あるクライアントの経営層の方が、ABWの考え方を「自分の行動をデザインすることです」と自分なりに咀嚼した上で具体的に社員の方に説明しているのを見たとき、感動するものがありました。
私たちがこれまで理解してもらおうと話し続けてきたことが会社組織で重要な経営層も理解してくださっているのだなと実感できた瞬間でした。働き方はこれまで経営の真ん中に来ることがなかったテーマかと思うのですが、人的資本などのトレンドもあり、今後ますます経営テーマの一つになると思っています。
私たちがABWやハイブリッドワークについて説明するとき”One size doesn’t fit all(すべての組織に当てはまるたった1つのアプローチというものはない)”について話しますが、クライアントが自分達にとっての”新しい働き方”とはどういうことなのかをイメージするところまで理解を深める姿を見れた時は、働き方コンサルタントとしての役割が少しは果たせているのかなと思います。
Q. あなたにとってより良い働き方 (a better world of work) とはどのようなものですか?
多様な働き方を認め合いながら、チームとしても成果を発揮できることだと思います。