ハイブリッドワークには、オフィスに常にいる人と、リモートで働く人(自分の意思か、必要に応じてかは問わず)との間で受ける扱いが異なるという、従業員間の二層構造を生み出す恐れがあります。そのため、インクルージョンの考え方がこれまで以上に重要になります。
そもそもハイブリッドという言葉には混乱がつきものです。それはなぜか。多くの組織で「ハイブリッド」の意味が曖昧になってしまっているからです。単純な話ですが、ハイブリッドワークはその性質上すべての人に同一な働き方をもたらすわけではありません。その結果として、インクルージョン(包括性)が主要テーマとして据えられることになるわけです。
「包括的な組織」とは、すべての従業員を受け入れ、リソースへの公平なアクセスにより、彼らが有意義な形で会社に貢献することを可能にする組織であると私たちは理解しています。しかし、働く場所を選択する能力に制限をかけるものが公平でない場合、リソースへのアクセスに影響を与えることは間違いありません。
ハイブリッドな働き方は、これまで人目に触れられることがなかったかもしれない、特定の人々を排除したり制限したりするような問題を明らかにしています。いくつか例を挙げてみましょう。
コロナ禍で起こったロックダウン(都市封鎖)により、男性よりも女性のキャリアが影響を受けていることが明らかになっています。2020年5月のIFSとUCLによる研究によると、母親は父親よりも子供や高齢の親戚の世話をしながら働いている傾向が強いことがわかりました。
また、Pregnant Then Screwedというキャンペーングループによると、雇用されている母親の57%が、パンデミック中の育児責任が自分のキャリアに悪影響を与えるだろう(またはすでに影響を与えている)と考えていることがわかりました。
身体的な障害や長期的な健康障害のある人にとって、ウイルスの感染リスクがまだ高い中でオフィスに戻ることは現実的ではなく、望ましくもなければ不可能でさえあります。
イギリスの国家統計局によると、在宅勤務をしている従業員は、ボーナスや昇給を受ける可能性が低いことがわかりました。また、従業員の10人に3人は、ハイブリッドワークの間、専門性向上のためのトレーニングを一切受けていませんでした。
パンデミック中に新しい仕事に就いた人たちにとって「ちょっとした」質問や「くだらない」質問をするのは難しいという声をよく聞きます。Zoomで電話をするほどのことではないと思われるからです。そのような臨機応変に質問・確認できる瞬間の有無が、新しい職場における最初の数週間で居心地の良い・悪いの違いを生むきっかけになることさえあります。
こういった問題は厄介ですが、ハイブリッドワークの実現にゴールはありません。ハイブリッドは完全リモートワークや完全オフィス勤務よりも複雑で、ほとんどの組織にとって常識を覆すものでしょう。
次に何が起こるのか、企業は知る由もありません。 しかし、リーダーたちの「元に戻ろう」という希望的観測が、私たちを待ち受けている巨大なチャンスを形作るべきではありません。このような問題を克服するためには、未知に直面しても適応力と回復力を持つことが戦略的にかつ緊急に必要とされていることが、これまで以上に明らかになっています。
多くの人にとって最も分かりやすい質問は、「週に何日、オフィスやリモートで働くべきか?」というものですが、これは最初にすべき正しい質問ではないかもしれません。 それよりも、人々が行う活動に焦点を当てる方がより有益な答えを集めることができ、自身の仕事に合うハイブリッドワークの方法や、従業員の姿・あり方を最適な形で表現する方法を探るきっかけとなるでしょう。そうすると、以下のような質問が考えられます。
パンデミック以前から、自分の組織がインクルーシブであると考える人の割合は大きく異なり、対面での交流が当たり前であるが故に他で起こっている不公平さを覆い隠してしまうことも多くありました。しかし、ハイブリッドワークはこのような仮面の多くを取り払い、インクルージョンを追求すべき重要なテーマとして明らかにしたのです。